「こんにちは!」新代表者紹介インタビュー




<第143回>
The Japan Foundation, Toronto
岩永 絵美 Executive Director

独立行政法人国際交流基金のトロント日本文化センターの岩永所長にインタビューをして参りました。ジャパンファウンデーションという名称でご存知の方が多いかと思います。昨年9月にYonge x Bloorに移転した新センターは、オフィススペースの他に、美術品などの展示を行うギャラリースペース、 映画上映や講演会を行うイベントホール、日本語講座のためのセミナールーム、そして日・英・仏語での小説、雑誌、漫画、児童書から、日本語教材や日本文化・日本研究に関する図書、CD、DVDを所蔵し貸出をしている図書館を有しています。人と会うのが好きだという岩永所長は、大変柔らかい物腰と口調の裏でエネルギーが漲られており、今後のイベントやプログラムのアイデアに溢れているようでした。過去のご駐在経験やプライベートなど、色々と伺ってきました。


(松田)国際交流基金さんの事業内容をご説明ください。

(岩永氏)国際交流基金は、外務省所管の独立行政法人で、総合的に国際文化交流を実施する日本で唯一の専門機関です。設立は1972年。文化芸術交流、海外における日本語教育、および日本研究・知的交流の3つを主要活動分野としています。

文化芸術交流の分野では、日本の文化を、美術や音楽、映画やファッション、デザインまで、幅広く世界中の人たちに紹介し交流しています。日本語教育の分野では、世界中のより多くの人に日本語を学んでもらえるよう、教材の開発や日本語能力試験の実施、日本語教師の研修、専門家の派遣などを行っております。

そして日本研究・知的交流については、日本への理解や各国の有識者同士の交流が深まるように、シンポジウムや共同プロジェクトなど、様々な分野での支援活動を行っております。

(松田)拠点はどちらにありますか。

(岩永氏)国内には、本部が東京にあり、その他、京都支部、日本語国際センターと関西国際センターの2つの付属機関があり、海外には23カ国に24の海外拠点を持っています。

(松田)トロントの1箇所のみで全カナダを管轄されているんですね。

(岩永氏)これだけの広い国土をもつカナダを、我々のみで事業展開をするには限度があります。そのため、カナダ国内の日本国大使館総と領事館のご協力をいただきながら国際交流の事業を行っています。

その他、各地の文化機関や大学と共に事業を実施したり、カナダ日本語教育振興会(CAJLE)とともに日本教師向け研修事業をしたり、各地の日本語スピーチコンテストの応援もしています。カナダ日本研究学会(JSAC)と連携して日本研究事業も実施しています。トロント日本文化センターは職員数が少ない小さい所帯ですので、専門家や専門機関とのネットワークを大切にしています。

(松田)現在ギャラリースペースで開催されているイベントについて、ご紹介いただけますか。

(岩永氏)”Yakishime – Earth Metamorphosis”という、「焼き締め(やきしめ)」に関する展示を8月10日まで行っています。焼き締めとは、釉薬をかけずに高温で焼き上げる製法の陶器のことで、1500年以上の歴史があります。備前、信楽、常滑が有名ですね。

本展示では、茶道に使われた陶器と食器として使用された陶器の機能的な焼き締め、並びにコンテンポラリーアーティストによる芸術性の高い焼き締めと、形、色、質感が様々な作品が揃っています。平安時代や桃山時代の貴重な陶器も展示されていますので、是非この機会に皆さまにご覧いただければと思います。

(松田)先ほどギャラリーを拝見させていただきましたが、まるで珊瑚のような焼き物があり、繊細さに驚きました。他にはどのようなイベントが予定されていますか。

(岩永氏)当センターの日本語講座で、7月に入門レベルの短期日本語集中講座を開催します。敬語を取り上げて勉強したい方のためのコースで、なかなか人気があります。国際交流基金が3年毎に行っている調査によると、カナダの日本語学習者は現在、2万人くらいです。それは、学校や講座に通って定期的に勉強している人の数であり、インターネット等を使用して独学で勉強されている方たちは反映されていませんので、実は学習者数はもっと多いのではないかと思います。

今は日本のポップカルチャーが人気で、若者が日本語学習を始める大きなきっかけとなっています。漫画を日本語で読みたい、アニメを日本語で見たい、と自宅でコツコツと勉強をされている方も多いようですね。5月にトロントで開催されたAnime Northに出向いて日本語入門のクラスを開催したところ、すごい熱気でたくさんの若者が集まってきてくれました。

国際交流基金が、「アニメ・マンガの日本語サイト(http://anime-manga.jp)」というウェブサイトを創設していますが、こういうサイトを利用し独自に日本語学習ができますし、さらに関心を持った方々が、センターでの日本語講座にお出でいただければと願っています。

「焼き締め」展と関連づけて、7月から日本の「食」をテーマに、ドキュメンタリー映画シリーズを当センターで上映します。8月はトロント市内の映画館で日本のミュージカル映画を取り上げます。夏から冬にかけて、毎年恒例のカナダ巡回日本映画祭をカナダ全国で実施します。上映時期は順次、ホームページなどでお知らせいたしますので楽しみにしていてください。


(松田)毎月たくさんのイベントを開催されていますが、プログラムのアイデアはどのように生まれるんですか。

(岩永氏)日頃から新しいプログラムについて考えていますね。例えば先日、文化芸術、日本語教育、日本研究・知的交流の3つの分野で、共通テーマとして「デザイン」についてアイディアを出すようスタッフに宿題を課したんです。文化芸術のデザインはイメージがしやすいと思いますが、日本語教育、日本研究・知的交流の分野でもそれに関連づけた企画をやろうと。

日本語教育とデザインですが、一例を挙げてみます。落語家の柳家さん喬師匠が、このたび文化庁の文化交流使に任命され、来年の2月にトロントにお出でになるご予定です。実は、さん喬師匠は、ライフワークとして10年以上、毎年、アメリカのある大学で夏季集中講座を設けて、落語を通して日本語教育を勧奨されています。

日本語を学んでいるカナダ人が、日本の小噺でカナダ人を笑わせることができるとしたら、どのような笑い、あるいはユーモアの「デザイン」がありうるか。師匠の高座から、落語を通じて日本語について改めて考えてみるきっかけを作ることができたらよいなと思います。むろん、初めて落語に触れる方々も大歓迎です。

日本研究・知的交流の分野ですが、日本の文化や歴史といったトラディショナルなテーマも大事ですが、現代的な課題、卑近なテーマも重要です。例えば高齢化社会など、日本とカナダで共通の問題を一緒に考えてみる場もあったらよいのではないか。

そのように様々な観点から、文化芸術、日本語教育、日本研究・知的交流という3つの分野を軸に、皆さんに、面白いな、今まで気づかなかったがなるほど、と言って頂けるような企画とプログラム作りを目指しています。

(松田)それでは、岩永所長のご経歴についてお伺いしたいと思いますが、ご出身はどちらですか。

(岩永氏)出身は東京です。小学校時代はアラスカで過ごしましたが、その後は日本です。大学卒業後、国際交流基金に就職しました。基金は職員を3年から5年おきに異動させるポリシーを持っているため、様々な部署を経験します。今まで海外勤務は米国、ハンガリー、と経験してきて、カナダと3カ国目です。東京都歴史文化財団東京芸術劇場に出向していた経験もあります。

(松田)国際交流基金へご就職されたきっかけはなんでしょうか。

(岩永氏)学生時代に課外活動ですかね。ドイツのブレヒトという劇作家の作品で、中国を舞台にした「セチュアンの善人」という芝居をやることになり、いろいろと準備をしていた矢先、丁度、国立劇場で京劇(北京オペラ)を初めて観る機会に恵まれました。音楽も衣装もものすごく違っていて、強烈なンパクトを受けました。

そして、就職先を考える頃になって、私が日本にいながら感じた異文化体験を、今度は海外で、しかも日本文化を広めるような仕事につきたいと考えて、応募しました。

(松田)ニューヨークへはいつ頃ご駐在されていたんですか。

(岩永氏)1998年から2003年までです。丁度9.11をマンハッタンで経験しました。ニューヨーク日米センターという部署で、草の根交流と、教育を通じて日本理解を深めるプログラムを担当していました。日米センター総体としては、その他の知的交流やフェローシップの供与等、様々な形で日米関係を深めていくミッションを持っておりました。非常に密度の濃い4年間でした。

(松田)トロントに来られる直前までハンガリーにいたとのことですが、どのようなお仕事をされていましたか。

(岩永氏)ハンガリーには、2010年4月から2015年11月まで駐在していました。ブダペスト日本文化センターは、基金の中東欧の拠点として13カ国を担当しているのですが、トロント日本文化センターよりも小さい事務所でした。やはり同地域内の日本国大使館大使館と連携をさせて頂きながら、各国の大学で日本研究分野へのグラントの供与や、日本語教師の研修、日本の文化紹介事業などを行っていました。

特に、私が在籍した時期に、日本企業からいただいたご寄付のお蔭で、ハンガリーにおける日本語教育を一層支援、ハンガリー語による日本語教材を制作しました。これはハンガリーの日本語教師と基金の日本語教育専門家が協働で取り組んだ大変インパクトのある、画期的なプロジェクトでした。成果物はハンガリーの出版業界からも優秀賞をいただき、現場の日本語教育で使われています。

(松田)異文化交流として、様々なご経験をされておりますが、これまでのお仕事の中で一番印象に残っているプロジェクトについてお話しいただけますか。

(岩永氏)ハンガリーにいた頃に思い出深いプロジェクトが2つあるのでお話しします。

1つ目は、日本語・ハンガリー語大辞典が完成したことです。これは15年かかったプロジェクトで本当に大変な作業でした。現地の日本研究者と日本語教育関係者の方々がチームを作って、こつこつと作成しました。語学を勉強するための辞典というのはあって当然、と感じられるかもしれませんが、この規模のハンガリー語辞典はこれまで存在していなかったのです。

事業が完成した時は大変嬉しかったです。特にプロジェクトのきっかけを作り、推進者のひとりであった元駐ハンガリー日本国大使のあつい思いもあり、その後、多数の方々のご協力のお蔭で、ようやく昨年、出版することが出来て大変感激いたしました。

(松田)辞典を見せていただきましたが、大変分厚くて、内容が充実されていると共に、完成まで様々な努力とご苦労があったことが伺えます。2つ目はどのようなプロジェクトでしょうか。

(岩永氏)2つ目は、2014年から開始さえた中東欧の若者を対象とした研修事業です。主にポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアの中欧諸国の学生で、日頃より日本について学びたいが、その機会を得ることがなかなかできない若者が、日本の民間財団の支援を得て、英国で行われる夏季研修プログラムにて勉強する機会を得たのです。

公募制の研修事業は画期的でした。イーストアングリア大学と、サインズベリー日本藝術研究所が協力して実施した夏季研修事業は本当に素晴らしく、私も学生に戻って勉強したくなりました。ブダペスト日本文化センターは、事業実現のために潤滑油的な役割を果たしたまでですが、現場に近いところで関わることができて幸いでした。

稀少な機会を得た学生たちは、寝食を共にしながら日本学の講義を受け、ロンドンにフィールドトリップをして大英博物館で日本美術コレクションを観たり、非常に密度の濃いプログラムに参加しました。学生が日ごろ専攻している分野は、建築、工学、化学、ビジネスなど実に様々で、中にはその後文部科学省の奨学金を得て日本に留学した者もいましたので、次世代支援という意味において非常に有意義な事業だったと思います。

(松田)そのような有意義なプロジェクトが、毎年続いていることも素晴らしいですね。それでは、岩永所長がお仕事を進める上で心掛けていらっしゃることはどのようなことでしょうか。

(岩永氏)私は人に会うのが好きなんです。しばらく外出をしないと元気がなくなってしまうようで、以前スタッフに「所長、最近元気がないから、外部の方とミーティングをセッティングしましょうか」、とか言われたことがあるくらいです(笑)。

人との出会いは日頃より大切にしていますが、日本と関連したことで、さまざまな取り組みをされている方々と出会いで心洗われることが多々あります。この仕事についているからこそ、分かったこと、気づかされたことがあり、大変恵まれていると感じています。

ちなみにトロント日本文化センターはアクセスの良い場所にあるというだけでなく、所長もスタッフもアクセスしやすいと感じていただけるよう一層心がけたいです。

(松田)プライベートなこともお伺いしますが、ご趣味は何でしょうか?

(岩永氏)スポーツは少し水泳をする程度で、生憎、運動はあまり得意ではありません。旅をすることは好きですね。カナダは、大自然はあり、冬のスポーツが盛んですから、今後、さまざまな発見を楽しみにしてます。

(松田)今までで一番印象深い旅先はどちらですか。

 
柴田多佳子 前JETROブダペスト所長と一緒に 
(岩永氏)住んでいたところですので旅ではないですが、ブダペストは良いですよ。ドナウ川は素敵ですし、歴史のある街並みと、夜景は本当に素晴らしいです。食事もワインも美味しいし、人々は非常に親日的で優しい方々が多いです。夏の間はトロント - ブダペスト間は直行便が飛ぶようですので、是非訪れてみてください。

(松田)今はお休みの日はどのようなことをされているんですか?

(岩永氏)仕事でイベントが週末に重なることが多いので、日本では中々見られない日本の映画を見たりしています。後は街歩きが好きですね。これから季節が良くなるので、外に行っていろんな人に出会いたいと思っています。

(松田)最後になりますが、商工会会員へメッセージをお願いします。

(岩永氏)トロント日本文化センターはカナダと日本との国際文化交流活動に従事していますが、こうした活動は、日加両国の関係、特に経済関係が安定しており信頼関係がしっかりと構築されているから成り立つことだと思っています。非常にありがたいことです。経済活動に従事されている商工会会員の皆様からは、色々なことを学ばせていただきたいと思っています。

商工会は非常に貴重な組織ですので、我々も出来る限りの貢献をしたいですし、会員の皆様にもどうか我々を活用していただきたいです。ここで活動している商工会の会員の方々と良い関係を維持し、共同でプロジェクトなどをする機会があれば、是非お願いしたいと思っております。

(松田)インタビューは以上となります。本日はお時間をいただきありがとうございました。



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