リレー随筆


しっかり回りはじめた歯車

nagomi beauty room オンタリオ州認定中医学専門士・鍼灸師(R.TCMP., R.Ac.)
峯崎 由紀



お客様からよく、「どれくらいカナダにいらっしゃるんですか」と聞かれます。今年で10年になりますが、そう返す度に、もうそんなに長くいるのかと自分でも驚きます。

はじめて海外に住んだのは15年前で(これまた書きながらビックリです)、アメリカで心理学を勉強したくて留学したのがきっかけでした。

結婚を前提にカナダに移り、アシスタントキャリアカウンセラーをしていましたが、第二言語である英語でカウンセリングをするのは当時の私には荷が重く、自信を失うことも多々ありました。そんな時、オンタリオ州で中医学(鍼灸、漢方)が国家資格になるという法律が通り、普段はこれでもか、というくらい優柔不断な私が、「これだ!」と決めて、学校に行く手続きを始めました。 

私の両親は漢方相談に力を入れている薬局を営んでおり、 幼少時から当たり前のように苦い漢方薬を飲まされ、割と健康に過ごして来ました。
 
アメリカ留学で寮生活が始まり、ストレスや環境の変化で、今まで全然経験した事のないような不調が出るようになりました。医務室で薬をもらっても私の体には合わず、逆に副作用に悩まされました。

久しぶりに日本に帰省した時、漢方を当たり前に飲む生活に戻り、体調を取り戻しました。その時はじめて今までの私の健康が、親の愛と東洋医学に支えられてきたのだと気づきました。

その後、結婚を前提にカナダに来て、仕事で辛くなった時に、中医学が国家資格になるというニュースを聞いて、留学時代に気づいたあの感覚を思い出し、自分の健康、家族の健康のためにも真剣に勉強したいと思いました。

カナダで中医学?と思いましたが、学校には中国で医者や大学病院の先生をしていた方も多く、指導者にはとても恵まれていました。   
 
私は、もともと飽きっぽい性格ですが、この中医学の学校だけは、在学中の結婚、出産がありながらAdvanced TCM Diplomaという5年間のプログラムを終えられました。夫、両親、義理の両親、学校の先生方、そして中医学のサポートがあったからこそだと感謝しています。

地元鹿児島でカナダ人の現夫に出会い、カナダに移住する事も夢にも思いませんでしたが、異国、しかも西洋の国で親と同じ中医学を勉強するなんて、もっと思ってもいませんでした。

人生の巡り合わせ、成り行きって本当に面白いものです。何が起こるかわからないことだらけです。何をやっても実にならず、やりたいことも見つからず、私はどこに向かうのだろうと思った時期もありました。

巡り巡ってここに辿りついたけれど、やっと今までの遠回りに納得がいき、つじつまが合い、やっと大小幾つかの歯車が一斉にゆっくり回りはじめたという気がします。留学も、心理学を学んだことも、出産も、今の自分にいろんな風に活かされている、生き心地がいい、と感じています。

その歯車は、これからも錆びたり、歯が欠けたり、止まったりするかもしれません。でもこれから起こるであろう予測もしない出来事、出会いや経験が、オイルとなり、ブラシになり、またすぐに回り始める、と信じられるのです。

そして、これから先出会うであろう人達に、もうこちらに来て20年です、30年ですと健康で笑って言えるようになっていると思えるのです。


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