リレー随筆


回想 ~Dear カナダ


吉村 古都美



約15年住んだカナダ生活から日本に戻ったのは昨年7月の湿気いっぱいの暑すぎる夏。

子供から大人までディズニ―映画「アナと雪の女王」の主題歌’Let It Go'♪ありのままの~♪と歌っている。本屋にはココナッツオイルの効能について書かれた書籍や雑誌が並ぶ。日本には“ブーム”があるんだった。

今まで日本に一時帰国していた時には、日本の美味しいものを食べ、家族や友達に大歓迎され、小さな日本をあちこち回り、制限のある期間を計画的に過ごしていた。そして、日本の良さをつくづくと実感しカナダに帰ったものだ。

しかし、実際この15年の空白の月日は大きく、覚悟して帰国したもののそれ以上に逆カルチャーショックを受け、浦島太郎状態の真っ只中である。

電車が少し遅れると、場内アナウンスからは「2分遅れております」とご丁寧な謝罪のご挨拶。「いいですよ、いいですよ、2分ぐらい。TTCは40分待つ上に3台一緒にきますよ」と返したくなる毎日。駅に向かって走っている学生や会社員はトロントではほとんどない新鮮な光景。

そして、車内の静けさといったら感動ものである。朝の身動きできない満員電車にもかかわらずくしゃみをしようものなら注目の的になりかねないが、トロントならくしゃみ一つで会話が始まってしまう。日本語の本を読んでいるだけでも声をかけられるのだから。

先日久しぶりに駅前で選挙運動に出くわした。「〇〇(その人の名前)でございます」と話しかけられて、思わず「𠮷村古都美でございます」と返してしまった失敗。忘れていることも多々ある。

帰国して仕事に入る前に、自分の専門である老人福祉の現状を把握するため施設を見学してみた。15年前には考えられない株式会社の参入で業界はビジネス化されていた。2000年に介護保険制度が施行されて以来、措置制度がなくなり利用する方は皆、サービスや施設を選べるようになったのだ。

ある老人ホームには、アメリカ出身の施設長がいて、スタッフは日本在住の外国人。私にとっては普通の光景であったが、日本の福祉業界にとっては海外からの看護師、介護福祉士などの確保がこれから超高齢化社会に向けてより一層大きな課題になるであろう。

ある有料老人ホームでカラオケをしていたが、聴いたことのない歌がたくさんある。15年前に利用者が歌っていた曲といえば美空ひばりから始まって軍歌まで歌われていた。しかし、ここで歌われているのは氷川きよしのファンという方、水森かおり
などの曲。

彼らの生まれた年を聞くと、ほとんどが昭和世代。そう、明治生まれがいない。大正4年生まれの方でも今年100才なのだ。当たり前のことであるが、変化したことを改めて実感した。

15年の止まっていた空白をどうやって埋めていこうか考えつつ、気付いたら駅に向かって走っている自分がいた!

先日、以前の勤務先のヘルスケア協会モミジのスタッフの仲間から寄せ書きが届いた。懐かしい一人ひとりの筆跡と言葉に胸が熱くなる。

彼らとの思い出を辿りながら、この国が変わっただけでなく私自身も変わったこと、そして、“ありのままで”生活するには少し窮屈さを感じつつも、少し“見方”を変えながら受け止めていかないと、と思う今日この頃である。








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