リレー随筆


年寄りペダル


大塚 守 Mazak Corporation Canada Service Assistant Manager



太ももを、ふくらはぎを激痛が何度も襲う。喉はからからで、意識も朦朧とし出した。初夏のカナダの長い日が暮れかけてきた。もう9時近いのに、コンドまでの距離は10km以上ある。もう駄目、ここで死ぬか?娘たちよすまん、だらしない父ちゃんでゴメン…。

2013年の初夏、テレビでIndyのレースを観戦、土日の2連戦で佐藤琢磨は下位に沈み、「俺が見に行けば明日は勝てる!そうだトロントまで自転車で行こう!」いつも思い込みは激しいが、実行に移すことはなかったのに、この時は何を思ったか本当に行ってしまった。

あとで聞いたらこの日の気温は最高35度。応援むなしく琢磨は途中リタイヤ(昨日より悪い。俺が見に行ったから??)その帰り道、出だしから20km程は順調に走っていたのが、残りの10kmでエネルギー切れ、半脱水症状で、ふくらはぎと太ももは攣り、冒頭のような状態になりました。

思い返せばこの時が、カナダで自転車を始めたきっかけのきっかけ?だったと思います。一応、えせロードバイクとヘルメットは日本から持ってきてたのですが、ぴちぴちのレーサージャージを着て走るところは想像できません。靴がペダルにくっつくって、なにそれ転んだらどうするの?

この後ひょんなことから、とある方と早朝ライドでご一緒させていただいて、その方のペースに全くついていけず、「これはいかん、自転車買い換えよう」と決意したのが直接のきっかけではあるのですが。

自分の不摂生による体重過多を棚に上げ、走れないのを道具のせいにするお気楽B型思考は、しかし少々の天邪鬼で、時代の先端、カーボンフレームロードバイクには見向きもせず、ノスタルジー漂うスチールフレームを購入しましたとさ。ただお金が無かっただけなんですが…。

買った後に激しく後悔?「きっとすぐに飽きちゃうのに、こんなの買って…」というのは杞憂に終わり、今もなんとかカナダの自然道をまったり走っております。

冒頭の情けない状況の時はミシサガに住んでおりましたが、今は会社オフィスに程近いケンブリッジに居を移し、往来の少ない田舎道はなんと走りやすく、日本人カナダ人問わず走り仲間もできて、昨年の夏は本当に楽しい自転車ライフを満喫できました。不恰好な体型も幾分スマートになれたかな?ぴちぴちレーサージャージ姿を娘に笑われないくらいにはなりました。
ただ1つ泣き所はやっぱりカナダの短い夏。美味しい期間はあっという間に過ぎ、雪が降ったらもう走れません。せっかくちょこっと痩せたのに、冬眠前の熊よろしく脂肪を溜め込む毎日。あー、はやく走りたい!太いタイヤに重装備で雪上ライドを楽しむつわものカナディアンも目にしますが、自分にはそんな勇気はありません。

冬の間の楽しみは床の間バイクを眺めてムヒヒ、意味無くジャージー+ヘルメットに着替え、鏡の前でムヒヒ、買ってきたパーツに交換して、颯爽と走る自分を想像してムヒヒ…。なにかすごい変な人になってますが、皆さんの中にもきっと、そんな妄想趣味な方がいらっしゃるのでは??

日本でも今は空前の自転車ブーム?サイクリスト少年を題材にしたアニメなんかもある昨今、自転車始めてよかったな、と素直に思えます。カナダの雄大で真っ直ぐな道を走っているのはこの上ない贅沢。この拙い作文にお付き合いいただいた皆さんの中に、カナダに来たけど楽しみを見つけられない、という方がいらっしゃいましたら、一度お声掛けください。気楽に走りましょう。

Let's ride together !








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