リレー随筆


カナダで日本人が陶磁器を作る


赤井 直美 AKAI CERAMIC STUDIO


陰翳礼讃

この言葉から受けるイメージは、日本人であれば薄暗い茶室や、障子からこぼれる淡い光などであると思われます。

あるいは清少納言が書いた、
「春はあけぼの 夏は夜 秋は夕暮れ 冬はつとめて」
各季節がこの冒頭の言葉から始まる美しい表現も、日本の移ろいゆく季節の陰翳が見事に表現されています。

千年以上も前から脈々と受け継がれてきた、自然や事物の陰翳、侘びや寂びを愛でるという、何とも奥の深い情緒豊かな精神がDNAとして私達日本人には宿っている気がします。

私の夫は長いこと日本で、「侘び・寂び」の権化とも言える陶芸をしていました。趣味だったり、仕事だったりしたのですが、カナダに来てからは長い間遠ざかっていました。

いつか、と思いながら瞬く間に時は過ぎ去り、ようやく2年ほど前から陶器を作る環境と時間が出来始め、2012年の9月に初めて自分達で作った器を人様に買って頂く、という機会を得ました。

その機会というのは、「クラフトショー」と言って、野外あるいは屋内で催される絵画や工芸・手芸作品を展示・販売するものです。殆んどのショーが事前に申し込み、審査を受けて参加できるシステムになっており、だいたい春からクリスマスシーズンまで州内、トロント市内のあちらこちらで開催されています。

私共は「さて、作るぞ」と始める前に、ここカナダで日本的な陶器を作るかどうか、長い時間悩みました。

日本人は、抹茶茶碗の中に宇宙まで見てしまいますが(曜変天目茶碗という国宝が有名)、果たしてカナダ人は侘びや寂びがわかるのだろうか?器の景色を楽しんだりする趣味を持っているのだろうか?様々な疑問が浮かんできました。

リサーチをした結果、やはり、カナダ人に日本と同じ陶器を売っても売れないであろう、というのが私共の答えでした。

最終的に、できるだけシンプルで使い勝手の良い日常使いの器を作ることにし、釉薬に工夫をしてみました。

初めてカナダで陶器を売った日、カナダ人のお客様から、「もしかして、貴方達は日本人?」と聞かれました。なぜそう思いますか?と聞いてみれば、「器のデザインがこちらの人と違う、シンプルだし、釉薬も見たことがないタイプだ」と言われ、この質問はこの後ほぼ毎回聞かれるようになりました。

果たして、カナダ人に「侘び・寂び」はわかるのか?という問いですが、カナダ人なりの感覚はあるのではないかと思います。

例えば、真っ白な器を買っていかれた方、光の当たる所へ置いておくととてもきれい、とわざわざ戻って来て報告してくれました。自分が好きで集めている他の小物達と並んでいると、その陰翳がとても美しいとのこと。家でいつも緑茶を飲んでいる、という方もいました。

日本の湯呑みを探していた、やはりあの緑色には日本の釉薬の色が一番合うと思う、と真っ白な湯呑みを買ってくださった方。

ここカナダは案外家の中が日中でも暗く、そして冬が長い土地柄もあって、陰翳に対する感覚は日本人と似たものがあるのかもしれません。湖に映る朝や夕方の光の色や、初雪が積もった朝の美しさ、カナダ人が大切にしている風景の中に深い陰翳があります。

陶磁器を通してカナダで新しい発見をしつつ、自分が日本人である事をこの地であらためて感じている日々です。


AKAI CERAMIC STUDIOのブログ
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