リレー随筆


猫とカタツムリ


ライター・フランス語翻訳
中島知子


トロントに来てから3年と少し。日々はのろのろと牛歩のごとく進んでいる気がしていたが、こうしてざっと振り返るとあっという間でもある。トロント行きが決まった2010年の秋、フランス語翻訳業とライター業を営んでいた私のカナダ知識はなかなか低かった。ただ「英語とフランス語が公用語で、何でも二ヶ国語表記の国。やった!」と思ったものだ。

以前暮らしていたフランスから帰国して数年が経ち、仕事上オンタイムにフランス語を使ってはいるものの、日常生活で触れることは稀だった日本での生活。カナダに行けば常にフランス語を目にし、同時に英語も入ってくるなんて素晴らしい。もちろん皆英仏バイリンガルだよね、と。

まあ実際そうではなかったわけで…。

フランス語? No!という反応に何度も出くわして打ちひしがれ、ならばとモントリオールに職探しに行ったこともある。ケベック語のフランス本国にない独特の表現が面白くて、マギル大学のケベックスタディー講座を受講しようとしたことも。

そうこうしているうちにライターの職を得て仕事のベースがトロントに固まり、2匹のオス猫をシェルターから迎えてめでたく4人家族となった。この子達が我が家に来た瞬間、この町がホームグラウンドだと思えるようになった気がする。

そんな少々見当はずれな経緯の中でとてもお世話になったのが、NPO団体の
Centre Francophone de Toronto。

トロント在住のフランス語話者を就職や日常生活など様々な面からサポートしてくれる組織で、メンバーはヨーロッパ各国、西アフリカ、南米出身者etc. と必ずしもフランス人やケベック人ではない。毎月開催される談話会カフェ・フランコでは、各国の料理や歴史を発見できるのが楽しみだった。

フランス語は話せないけれど興味がある、挑戦してみたいというフランコフィルの方は英仏会話クラスが無料で開催されているので、参加してみるのも面白いかもしれない。

今は取材のために外出が3割、残りの7割が執筆やメール連絡等で自宅のソファの上という勤務リズム。

自宅作業は大体こんな流れだ:PCを睨む。文字を打つ。猫、足元で爆睡。PCで調べもの。メール。猫、みゃあみゃあ(お腹すいた!)。よしよし、私もなにか食べよっと。そしてPCに戻って資料翻訳。文字入力。猫、みゃあみゃあみゃあ(退屈。遊んでよぅ!)。ねこじゃらしで気分転換。PCで取材先に連絡。スケジュール調整。猫、みゃあみゃあみゃあみゃあ! 。ちょっと無視→片っ端から物を落とされ始める……。

猫とPCに支配された一日が暮れると、今日も平和なルーティンを終えられてよかったなぁと感謝の気持ちが湧く。ソファの上でじっとりとぐろを巻く自分をカタツムリのようだと思いながら、じたばたもがいた時間を少しだけ遠くに感じたりしている。




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