リレー随筆


フィギュアスケート




秀川 恵子


娘が生まれて初めてスケート靴をはいたのが2009年早春、今年で4年になる。冬が長いカナダにいるのだから、と軽い気持ちで近所のスケートレッスンに申し込んだのが最初だった。週1回のグループレッスンが楽しく、時間があれば滑りたいという娘を野外リンクにも連れて行った。そのうちフィギュアスケートのクラスにスカウトされ、いつしか毎日練習をする生活になっていた。そして今は、セクショナルの大会に出場するコンペティティブスケーターに成長している。とはいえそこは指導も環境もカナダ式。日本と比べると、練習自体はのんびりしていて、スパルタというには程遠く、夜遅くまでの練習もない。でも、そんなカナダだからこそのスケートの魅力を書こうと思う。

思い起こせば、私が初めてスケート靴をはいたのもカナダだった。友人の誘いに乗り、マイスケート靴を購入し、トロントシティーホールの野外リンクに行った。怖い、難しそう、ビギナーだから恥ずかしい。そんな不安を抱きながらも、勇気を出して氷の上に立ってみた。「ああ、立てる!こんなに細い刃でも立てるんだ。なんだかとても不思議な感じ!」ふと周りを見渡すと、年齢や性別、人種を超えて、皆が思い思いのスケートを楽しんでいる。恥ずかしいという気持ちはいつしか消えていた。

以後、毎日のようにスケートを滑るようになった。思い切り滑りたいという気持ちが高じてオタワにまで行き、凍ったリドー運河を数時間以上堪能したこともあった。野外室内を問わず、アイス環境が豊富。年齢を気にせずカジュアルに楽しめる。同じウィインタースポーツのスキーと比べ、わざわざ山に行く必要もない。スケートのハードルが高くない。これはフィギュアやホッケーを問わず、カナダにおけるスケートの大きな魅力であろう。


スケート門戸が広いお陰か、はたまた自由で自然な発想が功を奏すのか、カナダには優秀なコーチや振付師が多い。娘のプライベートコーチが決まった時、その華やかな経歴に驚いた。メインコーチはかつて二度もカナダチャンピオンのタイトルを取り、サブコーチはNHK杯でも優勝した事のある人だったのだ。特別な会員制クラブではなく、近所のスケートクラブなのにである。たった5歳の子にこんなコーチ陣がつくなんて、なんて贅沢な環境なのだろう。

そして、その豊富な人材に引き寄せられるかのように、近い将来を嘱望されてる若手から現役のトップアスリートまで、さまざまな選手が世界中からこぞって来加しているのも忘れてはならない。スケートを、とりわけフィギュアスケートを習得したいと考えている者にとって、これ以上の魅力はないだろう。

残念なことに、カナダでのフィギュアスケート人気は、日本のそれとは比べ物にならないほど低いのも事実である。でもこれは、逆にチャンスだと考えている。比較的大きなフィギュアスケートの大会でも気軽にチケットを購入して観戦することができるからだ。そして何かイベントがある際には、フィギュアを習っているちびっ子達が選抜され、アイスショーで滑ることも珍しくはない。娘もその一人であり、その経験はプライスレスである。

老いも若きも取り組めるスポーツ。滑るも観戦するも、カジュアルに楽しめるスポーツ。
皆さんも、ここカナダでスケート靴をはいてみませんか。そしてスケートを観戦してみませんか。



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