リレー随筆




カヌーキャンプ



吉留ゆかり
3H Communications Inc.  シニアグラフィックデザイナー



その昔修学旅行で乗った青函連絡船では乗船直後に船酔いし、友人のヨットではハーバーを出る前にすでに釣られた魚のように床にのびてピクピクし、更にはシュノーケリングを楽しんでいる最中ですら酔ってしまった経験がある。とにかく水上の移動に異常に弱い私が、何故かカナダに移住して以来カヌーキャンプにはいそいそと毎年出かけている。 新鮮な空気を吸いながらパドルを動かしているのが酔い止めの働きをしているのだろうか。

よく行くのはアルゴンキン州立公園のカヌーでのみアクセス可能なインテリアサイト。キャンプ用具を一式カヌーに積み込んで漕ぎ出す。はじめのころはポーテージングを数回しなくてはならないサイトによく行っていたが、最近ではポーテージングなしでアクセスできるラクチンなサイトを使っている。

贅沢なほど隔離されていて大自然思いっきり独占状態。夜に遠くのほうにキャンプファイヤーの灯りが見えてやっと他の人がいることを認識するくらい。インテリアサイトなので、もちろんシャワーもトイレもない。いや、トイレはサイトの奥に続く細道を進んでいくと林に隠れた場所に「箱」がこっそりとある。キャンプファイヤーのピットもきちんと用意されている。ログを組んで火の周りに座れるようになっていたり、木を組んでキッチン用のストーブを置く棚があるサイトもある。なかなか整備されている。

熊がいっぱいいるらしいが、食べ物の扱いに気をつけているためかアルゴンキンでは見たことがない。キラニー州立公園のキャンプサイトでは、一度遭遇したことがある。そこは車でアクセスする普通のサイトで、周りに人がいっぱいいたので油断してしまったのか、朝食の食べ終わった紙皿をきちんと処理せずにカヌーでデイトリップに出かけてしまった。夕方戻ってきたら私たちのキャンプサイトに野次馬がいっぱい集まっていてびっくりした。

熊は私たちの朝食の紙皿の匂いに誘われてキャンプサイトにやって来て、食べ物の匂いだだ漏れのソフトタイプのクーラーを盗んで林の中に引きこもり、そこでゆっくり食事をしているようだった。日が沈み見物人たちはそれぞれのサイトに戻って行ったが、私たちには逃げ場はない。熊はまだクーラーを物色しているようで、時々ビリビリッと布の裂ける音が20メートルくらいしか離れていない林の暗闇の中から聞こえてくる。熊のいる方向とは反対側の林には小川が流れていた。多分平らげたであろうディジョンマスタードが辛かったのか、熊は夜更けまで何度もクーラーのある場所と小川を往復して、私たちはなんとも寝付かれない夜をすごした。失敗、失敗。

クエティコ州立公園にも足を伸ばしたことがある。2週間の休暇で、予約も入れずに行き当たりばったりでキャンプ場を梯子してサンダーベイまで辿り着いた。名前は聞いたことがあったが特に詳しいことは何も知らず、公園管理オフィスに行ってインテリアサイトにキャンプしたいとの旨を告げると、クススッと笑われた。被っていたのが確かアルゴンキンと刺繍された帽子だったと思う、管理オフィスの女性はチラリと帽子を見てから「ここはアルゴンキンじゃないんだから…」と苦笑した。

む…? 意味が分からなかったので聞いてみると、クエティコには用意されたインテリアキャンプサイトはなく、カヌーで入って行って適当な場所を見つけてキャンプするらしい。トイレの箱すらないのか!? 管理オフィスではサイトの予約ではなく、1日に出発するグループの数を制限し、管理しているらしい。アルゴンキンにそろそろ慣れて、キラニーで熊にも遭遇してなんとなく冒険家きどりだったところが一変、テーマパークにきてあのミッキーの耳をつけて風船かなんかを持ってスキップしている自分の姿が目に浮かんだ。

カヌーキャンプ歴、十数年。先日行ったキャンプではすれ違った若いカップルのカヌーから「おぎゃーおぎゃー」と赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。2人の子供を真ん中に乗せた家族4人の乗ったカヌー、犬を数匹乗せているカヌー、力任せでジグザグに進んでいく若い衆のカヌー。老夫婦は急ぐわけでもなくゆったりと静かに無駄なくカヌーを滑らせていく。老若男女、誰もが楽しめるカヌーキャンプ、これからも毎年一回ペースで続けていくつもりだ。






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